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社会課題の解決への思いが原動力。誰もが有機野菜を選べる世界を作る。

株式会社プラントフォーム
代表取締役CEO 山本 祐二

更新日:2023年3月22日

1979年 東京都生まれ。
2003年 立正大学卒業。リクルートにてIT製品比較サイト「キーマンズネット」の企画営業職に従事。
2016年 雪を活用した次世代型データセンター事業を手掛ける、株式会社データドックを創業。
2018年 株式会社プラントフォーム創業。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

アクアポニックスという新しい農法に出会うまで。

プラントフォームは新潟県長岡市で2018年に創業した会社で、アクアポニックスという魚養殖と野菜の水耕栽培を同じシステムで行う新しい農業を日本に広めようという立ち位置で事業展開しています。当社はハウス内でキャビアが採れるチョウザメを育て、バクテリアがその排泄物を分解した栄養素でレタスを育てています。農薬、化学肥料を必要としない農業で、水で行う有機栽培であり、アメリカではアクアポニックスで栽培された生産物はオーガニック認証されています。

現在は数種類のレタスを、長岡市を中心にスーパーや直売所へ出荷し、取引先を拡大しています。一方でこのプラントをショールームと位置づけ、アクアポニックスを導入したいと考えるお客様へ企画設計、建築施工、運営支援を行っています。

新潟県は農業県ですが、あくまで稲作が主体で、秋から春までの期間は雪が降り、日照時間が少ないので年間を通して植物を育てることは難しい土地です。そのため、「どうして長岡でこういう農業をしているんですか」という質問を受けることも多いです。

ここに至るには前段があり、私は2016年にデータドックというデータセンター事業を手掛ける会社を長岡市で創業しました。データセンターは莫大な電気を必要とする施設で、例を挙げると東京都で使っている10%の電気はデータセンター事業者が使っていると言われているくらいです。そのほとんどは、IT機器を稼働させたことで発生する熱を冷却するための空調用です。つまり、それだけCO2を発生させている産業とも言えます。さらに、データセンターは首都圏に集中していて、地方分散化が社会的な課題にもなっています。

そこで、冷却を自然エネルギーで賄うデータセンターを地方に作れないか、という構想で株式会社データドックを立ち上げました。長岡を選んだのは、気候と交通の便の良さ。寒冷地なので冬は冷涼な外気を取り入れることができ、夏は冬に降った雪を空調に利用することができます。これは環境に良いだけでなく、事業面でも4割原価が削減できるので、東京の事業者よりもスペックの高い設備を安く提供できるという競争力を発揮します。

地方創生を実現しようとしても、地方に人が集まらない理由は、経験を積んだ方たちが地元で働きたいと思える場がなかなか無い、というのが現状だと思います。「ITも東京の会社よりも新しいことをやり、かつ競争力のある事業を作って、東京に負けない給料を支払うことで、雇用が促進されるんじゃないか。この形を作らないと地方創生は進まない」という思いで創業したのが、その会社でした。

データセンターの排熱を食料生産に繋げられないか。

創業前はリクルートを経て、インターネットの広告代理店で働いていたのですが、ビックデータを扱っている事業者からすると、日本のデータインフラが古くセキュリティ思考が強いために、マーケティングで活用しようとすると制限があって使えなかった。それならセキュリティを担保した上で活用することを前提としたデータセンターが必要だろう、というところから発想が始まっています。

事業構想と社会課題をリンクさせて、実行していく。これが無ければ、今の時代は事業として成立しにくいですし、投資家も集まりません。逆にこれがリンクしていると、一気に投資へ動くということも理解しています。

もともと、世の中の役に立つ仕事をする、という思想の会社でずっと働いてきて、自分自身もそういう仕事をしたいと思っていたので、ただ単に儲かるということにはあまり関心がないですね。ただし、利益を出すということは事業継続のためにとても大事です。継続するために社会実装していく、ということですね。

ではなぜ、データセンターから農業に繋がるか。データセンターを冷却する際、暖気は外に排出します。東京では土地の問題でその排熱の活用は難しいですが、長岡は地代が安いうえに土地にも余裕があるので、その熱の再利用もしたいと最初から考えていました。排熱を活用した新しいビジネスと、エネルギーのリサイクルモデルとして発展させたいと思っていたんですね。

さらに、個人的にはその余熱の活用を食料生産につなげたいと思っていました。普段、皆さんが仕事でパソコンを使ったり、プライベートでネットやSNSで使っている熱エネルギーが、回りまわって食料生産に繋がっているモデルはすごく面白いと思ったんですね。オンラインゲームをしていても、それが食料生産に繋がっていたらユーザーも良いことをしているような気になるし、ゲームを提供している会社も社会貢献になるというのは楽しいと思いませんか?

それで、植物工場のようなものを探していたんですが、限られた面積の中で普通に植物工場をやってもなかなか利益は出しにくい、ということが分かりました。あとは、他の人が既にやっている事業を真似するのは面白くないというか、あえて私がやる必要は無いので、もっと新しいことをやりたいと思って調べていくなかで、アクアポニックスというエコな新しい農業がアメリカやヨーロッパで流行ってきているということを知りました。日本で取り組んでいる方もほとんどいなかったので、誰もやっていないことをやるのは事業としても面白味があるし、やりがいもあるということで、プラントフォームという会社が生まれました。

有機野菜を作るシステムのプラットフォーマーを目指す。

私自身にはアクアポニックスの技術はありませんから、それを担保するために、日本で一番詳しい人と事業をやろうと思って、当時第一人者だったご夫婦の試験プラントに1年半通って、一緒に事業をやりましょうと話をさせていただきました。

それまで日本のアクアポニックスは家庭向けの小さいキットくらいしかなくて、ご夫婦が持っていた試験プラントも100平米くらいのものでした。でも、大きいプラントを作らないと社会実装はできないと分かっていたので、「そのチャレンジを一緒にしましょう」とお伝えしたんですね。それでお話をしていく中で、承諾していただけたので、一緒に創業しました。

アクアポニックスのシステムは本当に画期的な仕組みで、水耕栽培はいろいろありますが、有機野菜を植物工場で作るということは、これまでは出来なかった。畑で堆肥を使って土づくりをして、苦労して作るしかないので、日本における有機野菜の生産量はこの数十年ほとんど上がっていません。世界の有機野菜マーケットはすごく伸びているので、日本は完全なるオーガニック後進国なんです。

一番大きい理由は地理的要因ですね。四季がはっきりあって多湿ということが、畑でオーガニック野菜を大量に作ることを拒んでいる。しかし、自然環境は変えることができないので、それなら環境をある程度制御できる植物工場での農業に変化させていくしかない。それを実現するための技術がアクアポニックス、という感じです。ですから、「有機野菜をいつでもだれでも選べる社会を作る」というのが当社のビジョンです。

いま、日本の食は本当の意味で転換期にあると思います。もともと農業従事者の高齢化や、若手が入ってこないという問題は言われ続けていますが、それに加えて肥料が手に入らないという新たな問題が出てきています。日本の肥料の輸入依存度はほぼ100%で、特に窒素、リン酸、カリウムという三大要素は日本では作れないんです。

世界的には人口は増え続けているので、既に肥料の奪い合いが始まっていて、価格はコロナ禍の2年間で4~5倍に高騰しています。ここで買い負けたら、肥料が日本に入ってこない訳です。そうならないためにも、日本の所得を上げて、貨幣価値を上げて、国際競争力を上げていく必要があるんです。

農業に関しては、2022年に「みどりの食料システム法」が施行されていて、2050年までに国内の農業・水産業が目指すべき姿と目標値が示されています。そのなかに有機野菜の生産比率を25%まで引き上げましょうというものがある。2022年の状態は0.5%で、この20年変わっていない訳です。これを次の30年で50倍にしようとしている。

農業従事者が減って、自然災害などで環境が悪化しているなかで、今のままではこの数字の達成は不可能に近い。けれど、やらなければ世界に置いて行かれる訳です。そのなかで、プラントフォームの立ち位置としては、有機野菜を植物工場で作るシステムを構築し、この新しい循環型農業システムのプラットフォーマーになりたい。だから社名はプラントフォームなんです。

社会課題解決のため。選んできた仕事は全て樹形図のように繋がっている。

最初はリクルートでの営業から始まり、インターネットのマーケティングをやって、データセンターをやって、いまは農業をやっているというと、全く違うことをやっているように見えると思うのですが、私の仕事観で言うと、業界や会社を軸に仕事を選択するというよりは、この社会課題を解決したいという思いを大切にしています。それを実現できる場所が、たまたまデータセンター事業者や農業事業者だった、ということですね。

リクルートからネットマーケティングに移ったときも、根本には、世の中には良いものがたくさんあって、新潟もそうですが、特に地方は良いものを作っている会社があるのに知らしめる力が弱くて売れない、消費者にとっては良いものが使えない、知らない、というのは損失だと思ったので、それを解消する仕事としてインターネットマーケティングの事業がベストと感じたので選択しました。

やってきた仕事は全て樹形図のようにつながっていて、社会課題を解決していきたいという根幹にあるものは変わっていないですね。最初にリクルートを経験して、そこは比較的、自分でやりたいことをやるために羽ばたいていく人が多い会社だったので、ひとつの会社で終身雇用という考え方とは違う世界を知っていた。だから、ドライブをかけて新しい世界に飛び込むことができた、というのはあるかもしれないです。

だから、ここも踏み台にしてもらっていいというか、うちの会社でやることが無くなってしまったのであれば、外に行った方が良いと思うんです。もちろん、私はそうならないように、常に新しい、そして楽しい仕事ができる環境を作っていく最大限の努力をします。ただ、それでも満足できない世界が生まれたときには、その人の次のステップを支持します、という感じですね。

ここで何をやりたいか、というビジョンを描ける人に来てほしい。

会社としては、今後もさらに様々な人材、プロフェッショナルな人材を求めていくことになりますが、この会社が面白いな、ワクワクするな、というところを常に見せる必要があると思っています。人の琴線に触れる事業構想や展望、この会社に飛び込みたいと思ってもらえるフィールド、環境を作ることが私の仕事ですね。

求める人材で言うと、うちの会社でやりたいことの明確なビジョンを持っている人。それは正解でなくてもいいんです。当然ですが、入社前に当社のことを100%理解して希望してくるということは難しいのですが、私たちのメッセージは世の中へ明確に発信していると思っているので、それを自分なりに解釈した上で、自分が持っている力、スキルをどう活かせるかというイメージを明確に持っている人材が欲しいと思っています。それは間違っていてもいいし、現状では私たちができないことでもいいんです。

それでもやはりベンチャーなので、周囲から不安がられることもあると思います。以前、地元の誰もが良い会社だと言うような有名企業から惜しまれながら転職してきた従業員に、働いてみてどうか聞いたときに「楽しいです。前の会社を辞めたことも一切後悔ないです」と言われたときは、嬉しくてウルっときました。私は主役ではないので、従業員が主役になっていく場をこれからも作っていきたいと思っています。

アクアポニックスシステムを広めて誰もが有機野菜を選べる社会に。

この先は、いろいろな循環型ビジネスが生まれてくると思います。今は有機野菜を作ることに注力していますが、10年後はどういうことをやっているかは自分でも分からないですし、そのくらいでなければこれからの時代は残っていけない。何より、ずっと現状のままだったら、私個人がこの会社に興味を無くしてしまうと思うので、変化していくことが私の経営論なのかもしれません。

そうは言いつつも事業なので、5年後、10年後の事業計画やビジョンは描いています。先ほど話したように、有機野菜生産のプラットフォーマーとしては、いまお客様が全国各地にでき始めてきて、ようやく第一歩を踏み出したかなというところです。

今後はアクアポニックスを制御するシステムを提供していく会社になりたいと思っています。お客様のプラントの蓄積データを分析することで、どういう環境で最適な育成方法が成立するかを理解することができる。それを、私たちのシステムを使っているお客様に提供して活用することで、みんなで生産効率や業務効率を上げていく。そして全国にアクアポニックスの仕組みを広めていくことで、2050年の有機野菜の生産率25%達成に寄与したい、というよりは私たちで実現したいと思っています。それが30年後の目標ですね。

私たちが掲げるビジョンは「有機野菜を誰もがいつでも選べる社会を作る」ですが、ここ長岡市に関しては、2022年の時点で、常にオーガニック野菜を選べる環境が実現した日本唯一の都市なんです。365日、私たちのレタスを途切れさせることなく出荷できた。それを日本中でも叶えたいと思っています。

編集後記

コンサルタント
皆川 暁洋

ワクワクが止まらない取材でした。もちろん、同社の事業を理解し、共感したからこそ人材のご紹介をさせていただいておりますが、今回のお話を通じて、山本社長のご経験すべてが今に繋がっていること、同社の事業が日本の大きな社会課題を解決する可能性を秘めていることを改めて認識できました。

プラントフォームという舞台で、世の中を良くするという強い気持ちを持っている方々がどんどん集まってくる画が見えます。同社が成長し続け、社会に刺激を与え続けることが約束されているように思えてなりません。

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