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魂を込めたモノづくりを続け、いつか木製品のプロと呼ばれたい。

マルナオ株式会社
代表取締役 福田 隆宏

更新日:2017年8月02日

1973年新潟県三条市生まれ。 立正大学経営学部卒業後、大手合板メーカーを経て、2000年入社。 2006年に3代目として社長に就任。 2009年に社名をフクダからマルナオに変更。 2014年11月に本社・工場を現在地に移転。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。

看板商品、箸のルーツは、祖父が始めた大工道具づくり

マルナオは、1939年に私の祖父が大工道具を手掛けたのが始まりです。その後、私が17年前に東京から戻ってきたとき、大工道具という専門分野だけでなく、幅広い層で使われるプロダクトを作りたいと思い、手探りで新しい商品づくりに取り組みました。現在では、箸が全体の売り上げの7割を占めています。

もともと黒檀や紫檀という非常に堅い木材を扱っていたので、それらを使ったテーブルウェアやキッチンツールを作り、その中に箸が含まれていました。「口当たりに徹底的にこだわった箸を作りたい」という思いから、14年前に箸を中心とした展開を始めました。

技術的にはこれまでの木材加工のノウハウを生かしたプロダクトですが、マーケットはまったく異なる分野で勝負することになりました。私が新しいことに挑戦しようと考えたのは、マルナオの前身である有限会社フクダを継続させたいという強い意志からでした。

当時、すでに中国に日本の製造業の仕事が奪われつつある状況がありましたが、父と祖父が続けてきた大工道具はとても息が長く、50年前と同じ品物が台車に1万2000個も積まれているのを見て、「こんなに古典的な道具が、今も全国で使われているのか」と驚きました。現在でも、売り上げの2割は大工道具が占めています。

こうした光景を目にするなかで、シーズンごとに入れ替えやセールが必要な短命な商品ではなく、徹底的にこだわった商品を作りたいと考えるようになりました。そして、私が始めた事業を次の世代の人々に受け継いでもらいたいと思うようになりました。会社というより、そのブランドを作っていきたいという気持ちです。

受け継がれるモノづくりの精神を箸にも注ぎ込みたい

大工さんは、使い慣れた道具を長く使い続けますが、その代わり一度でも裏切られた道具は一切使いません。マルナオの凧糸巻きが手に馴染んでいいなと思うと、それが古くなったときは、またマルナオの製品を買うんです。こちらが魂を込めて作ると、大工さんも職人としてその心意気を受け取り、使い続けてくれるのです。この精神を忘れることなく、同じ思いを箸にも注ぎ込みたいと思ってきました。

当社の箸は、まず口当たり、2番目につかみやすさ、3番目に手に持ったときの感触を重視しています。箸先が1.5ミリという極細の箸を作ることができる職人は限られており、とても手間がかかるため、多くは作れません。そのため、販売も限られたところでしかできないのです。

そこで私たちは、商品を理解してくださるお客さまがいる販売店で販売しようと考え、まずはハイエンドのお客さまも多い日本橋三越、感度の高いお客さまが集まる新宿伊勢丹、そして箸専門店の銀座夏野さんで販売を始めました。

販売店を絞り込むことで、お客さまに対してもしっかりとした商品説明ができますし、メンテナンス方法も丁寧にフォローできます。問屋さんが入ると、そこから自由に販売店や二次問屋に行くことになり、潜在的な在庫が生まれます。それでは商品が新鮮なものでなくなってしまうので、私としては嫌なのです。

もちろん、箸自体の鮮度が落ちるわけではありませんが、私たちの技術や伝えたい気持ちが薄れてしまう。だからこそ、できる限りお客さまに近い場所で販売したい。バイヤーさんの先にいるお客さまに直接売り込んでいこうという思いだったので、対面販売なども積極的に行ってきました。

オープンファクトリーは職人や社員の意識に影響を与えた

2014年にオープンファクトリーとショップを併設した新社屋を建てました。時代とともに食文化はどんどん変化し、すごい勢いでグローバル化しています。最近では、フランス料理なのか日本料理なのか分からない感覚の料理もでてきている。

でも、ここで毎日箸を作っている職人は、その変化をあまり感じられません。また、自分が作っているものの良さが、どんどんわからなくなってくるんですね。製造工場はどこもそうだと思います。

それではいけないと思い、最初の頃は三越での対面販売に職人を連れて行ったりしたのですが、忙しくなりそれが難しくなりました。そこで、こちらからお客さまを招いて、直接お客さまの声を聞ける場を作りたいと思い、オープンファクトリーとショップを作りました。

イベントで、実際に箸を使ってくださったお客さまから、「あなたが作っているの、すごいわね」と言われたとき、職人たちも「この仕事をしていてよかった」と思えるようです。オープンファクトリーは、そのように会社の内部への影響が強いですね。

旧工場では、お客さまやバイヤーを工場内に案内すると、職人は朝から緊張し、集中が途切れるんです。それでは仕事に支障が出るため、今は、ギャラリー側を少し暗くして、作業現場から人があまり見えないように配慮しています。

こうすることで、見られているという感覚が薄れる一方で、適度な緊張感は保つことができています。私たちにとってベストな環境です。ここで技術をさらに高めていってほしいと願っています。

新たな人材との出会いによって、ビジネスはより濃密になる

オープンファクトリーの存在によって、私たちの商品を使ってくださっているお客さまや、これから使っていただけるお客さまに、より一層、私たちの真髄を知ってもらいたいという思いが強くなりました。そのためにも、しっかりとブランディングしていかなければと思っています。しかし、ブランディングに共感できる人材に採用面接で出会うのは、そう簡単なことではありません。

そんななかで、2016年3月、初めて外部のデザイナーと組んで、クリエイティブディレクションをお願いしました。私がイメージするブランディングを精査してもらうためです。同時期に、社内にも私と同じ意識で動ける片腕が欲しいと思い、エンリージョンさんから紹介で人材を採用しました。海外展開についても、この時期にパートナーとのやり取りが始まりました。

皆さん、私のことをよく分かってくれていて、新しい風を吹かせるのではなく、私の意識に近づけてくれる。提案について「いいね」と言うと、「社長に近付けていますから」と言われます。押さえるべきポイントを、プロにしっかり依頼しながら作っていくという意味で、今後のブランディングを意識できるチームが揃ってきた感じです。

東京の次はぜひパリへ。マルナオというブランドを育てていく。

2017年の夏に、念願だった東京の直営ショップをオープン。そこでは、ただ商品を販売するだけではなく、お客さまにさまざまなプレゼンテーションができる場所にしようと思っています。まずは東京でそれをしっかりと実現し、その次は必ずパリに店舗を出したい。パリでは、東京とは違った新しい視点で、お客さまにプレゼンができるようになると思っています。

最初にお話ししたように、私たちの商品は、自己満足なんじゃないかと思われるくらい、魂を注ぎ込んでいます。そして、それを「いいね」と言っていただける。次の目標は、できるだけ多くの人に私たちの商品を使ってもらうことです。そのため、世界中の人々が行き交うロンドン、パリ、ニューヨーク、香港、シンガポール、上海などで、商品の説明ができるスタッフが揃う常設店舗を置きたいですね。そして、そこに直営ショップを持つことが目標です。

しかし、それは過程でしかなくて、本当の目標は、いつか「木製品のプロだね」と言われるマルナオにしたいということ。そのときの商品が箸でなくてもいいと思っています。世界には、人生で一度も箸を使わない国の人々もいらっしゃいます。でもそこにも関わっていきたい。

例えば、キャビアは通常金属のスプーンで食べますが、金属の特有の匂いや冷たい質感が気になります。でも、熱や冷たさを吸収したり、適度に弾力がある木の質感は、ものすごく良いわけです。クレームブリュレや茶わん蒸しなども食感が大事なので、道具が料理の邪魔をしてはいけない。これは、私自身が料理を食べながら感じたことでもあり、料理人から言われたことでもあるので、ぜひ作っていきたい。私の代でできなければ、次の代で実現してくれたらいいなと思っています。

編集後記

コンサルタント
永田 祐介

これまでの伝統と歴史を踏襲しながらも、木製品の可能性を広げるために果敢にチャレンジし続ける福田社長。多くの人を魅了する製品は、それを作り出す人々の情熱によって生み出されているのだと改めて気付かされました。

製品だけでなく、ショップやオープンファクトリーといった製品を取り巻く空間にも随所に「マルナオブランド」のこだわりが凝縮されており、来店される方を楽しませてくれる造りになっています。

なぜ県外、海外からお客さまが足を運ぶのか、同社に伺うとその理由の一端が垣間見えます。皆さんもぜひショップに足を運んでみてください。今夏オープンの東京ショップ、そして世界を見据えた今後の展開を、いちマルナオファンとしても楽しみにしております。

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